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真正の業平竹(ナリヒラダケ)を訪ねて

細身の竹は庭園の背景として植栽されたり、鉢植えにして和風飲食店の玄関を飾るなど便利に使われています。なかでも大名竹と業平竹は一般的に流通していますが、この業平竹、大名竹はよく似ていて、実は区別が難しい竹です。流通上も、ひょっとすると植物学上も区別が混乱しているのではないでしょうか。このページでは業平竹(ナリヒラダケ)の同定、品種の見分け方について考えます。


業平竹(ナリヒラダケ)類縁の竹

Wikipediaで『大名竹(ダイミョウチク)』を検索すると、それは唐竹(トウチク)と呼ばれる中国南部、台湾が原産の竹の事だといいます。そして『ナリヒラダケに似るが枝が多く寒さに弱い』、と記されています。つまりナリヒラダケとは別種であると理解されています。ところが、同じWikipediaで『ナリヒラダケ』を検索すると、そこには別名ダイミョウチクと書かれています。にもかかわらず『トウチクに似るが桿鞘先端の葉片の基部に肩毛がないことで区別できる』。つまりこの項では業平竹は大名竹と同じでトウチクとは別物という認識です。Wikipediaは多くの人が勝手に書き込んで作っているので、論旨が一貫しなくても不思議ではありません。少なくとも、この状況からすると両者について専門家の間でも、見解は一致していないといえそうです。これに関してもう一つ、アオナリヒラダケ(青業平竹)という品種があります。Wikipediaによれば、これは関東地方南部が原産で『桿や枝は緑色で葉が細いという特徴がある』とあります。
元々、ナリヒラダケ(業平竹)という植物名は日本の植物学の父、牧野富太郎博士が、平安時代の美男子、在原業平のように優美だということで命名したことで有名です。では、幅が狭く、長い葉形で、優男の手をほうふつとさせる竹は3種のうちどれが一番似つかわしいのでしょう。
ここで関連する竹の学名を整理しておきましょう。
トウチク(ダイミョウチク):Sinobambusa tootsik
ナリヒラダケ:Semiarundinaria fastuosa
アオナリヒラダケ:Semiarundinaria fastuosa var.viridis
ここでナリヒラダケ、アオナリヒラダケは牧野博士の命名です。

これら3種の竹は鉢植えとして市場に流通しています。ならば、作っている生産者に聞けばすぐわかりそうですが、意外やこれがまたあいまいな返事しか帰って来ないのです。竹の苗木生産者の多くは、昔からある竹林から、タケノコを掘り取って鉢入れして出荷しているのですが、その竹林の竹の品種について厳密な事はご存じではないようです。つまり昔から大名竹といっているから大名竹だろう、という程度です。


業平竹(ナリヒラダケ)の標準木はないのか

どこかに真正の業平竹の標準木があれば、かなりの事が分かるのではないかと考えていたところ、愛知県知立市を訪ねる機会がありました。知立(ちりゅう)市は在原業平ゆかりの八橋がある所です。ここにカキツバタの池がある無量寿寺と在原寺という二つのお寺があります。
そこに『業平の竹』と称する一叢の竹が、それぞれ植えられています。下の画像をご覧ください。

無量寿寺のナリヒタダケ 無量寿寺のナリヒタダケ拡大無量寿寺のナリヒタダケ


両者とも桿が青く、明らかに青業平竹です。葉の形も細く優美で青業平竹の特徴を表しています。業平ゆかりの地、八橋には青業平竹が植えられていることが分かりました。このお寺の植栽は観光のために植えられたもので、説明文にも、植物学的な説明はありません。残念ながら標準木ではないかという期待は外れました。ちなみに説明板には下記のように書かれています。

業平竹
業平の住んだと伝えられる大和国石上在原寺に、業平竹ひとむらすすきつつ井筒 などの伝説があり、この八橋と業平の関係により昔から植えられていた。又男女(めおと)竹と称し縁結びの竹とし、俗に信仰される。(無量寿寺)

業平の竹
在原のありし昔を伝え来てのこる形見の竹の一ふし
業平の女性の恋物語の故事に因んで縁結びの竹とされました。この竹の箸にて子供に食べさせれば「左きき」が「右きき」になるとの説が昔から伝えられている(在原寺)

二つのお寺は鎌倉街道(おそらくは鎌倉、平安時代以前の古代東海道と重なる)に面しています。在原業平はここを通って東に下ったのでしょうか

2018年08月18日
観葉植物(インテリアグリーン)のポトス
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