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パイウォーターは本当に観葉植物育成に有効か?
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 「観葉植物、幸福の木、伝来記」で導入を成功に導いたキー技術がパイウォーターであるという紹介をしましたが、その後パイウォーターは農業資材はもとより、活水器、健康飲料などの分野に広がっているようです。筆者も毎日たくさんの観葉植物、鉢物、苗類を扱っているので、この、驚異の水を使ってみたいと思いました。
 ところが、商業ベースでは着々と市場形成があるようなのに、今もって肝心のパイウォーターの正体がはっきりしないのです。装置の販売会社に問い合わせてみたのですが、一体どんなものかさっぱり分かりません。効能ばかりがあって、原理については全く説明になっておらず、インチキではないかという印象すら、ありました(結局、購入は取りやめ)。本当に植物や動物の生命力活性化に有用なら、その水自体の研究を更に進め、原理を解明すれば、人類発展、地球環境保護への寄与は計り知れません。しかし、今もって、その分野の基礎研究が進められているという話を聞きません。これこそ全面解明されたらノーベル賞級と思うのですが。あるパイウォーターの紹介記事で「現在の科学で説明がつかないので、パイウォーターの素晴らしさが理解されない」と書かれていましたが、第三者が追試、検証出来るような情報がなければ、理解しようもありません。すでに特許出願、公開されているということですが、情報不足でその技術が再現できないということであれば未完成の技術です。現状は、インチキなのかノウハウが隠された状態なのか第三者には混沌としています。以下、これに関する刊行図書の内容を整理してみました。

(1)山下昭治博士の研究
 『生命成立の原理』」:発行、造型社、発売、緑書房(1985)

 この本はパイ(π)ウォーターの発見にいたる研究の研究論文集です。目次は
第1章 花成過程における環境要因の解析
第2章 Phytosinとその花成制御作用
第3章 生命のしくみとPhytosin物質構成
第4章 Phytosinの非生物的再構成
第5章 生命成立の場ーπウォーターシステムについて

  植物花成の制御物質として特定されたphytosin(ファイトシン、後のパイウォーター)を人工的に再現する実験は第4章に述べられており、その内容を以下に引用します。
 『塩化鉄(U、V)10-6モル溶液10ml にαートコフェロールおよびユビキノン(Co-enzayme Q7)各0.1グラムの混合物をTween-20  0.1グラムと共に分散させ、順次蒸留水で希釈し調整液が作成された。
 この調整液をもとにして植物の花成制御をはじめ生物の細胞、組織、生体の各レベルにおける諸々の生命活動に対する作用性が確かめられた。』
 上記のαトコフェロールはビタミンE、ユビキノンとは補酵素(同類のQ10が最近健康補助食品として販売されているが、元々は心臓病の治療薬。役割は細胞内にあるミトコンドリア中でエネルギーを発生させる物質であるATPを作ること)、Tween-20は界面活性剤

 上記手順で作成された濃度の異なる調整液を満たした8本の試験管に大豆植物の頂端部を挿入して、その変化の度合いを比較しています。具体的にどのような濃度範囲で実験されたかは記されていません。結果的に2×10-12モル以下、および以上では葉の色素が黄変したり、茎の歪曲が見られるなどの異常が見られ、上記濃度のみで長期間、葉の褪色、組織の異変が起きなかったという(掲載されている白黒写真では印刷が悪く明瞭には分からない)。肝心の2価、3価のFeの比は調製液中でどうなっていたのでしょうか?第3章には、その分析方法まで書いてあるのにデータが示されていません。また生命活動に決定的に影響するのは鉄(Fe)であるというに、鉄(Fe)濃度でなく、何故、脂質濃度で最適値を表示されるのでしょうか?補酵素ユビキノンの寄与はないのでしょうか?

 上記濃度の液に屠殺したばかりの白ネズミの筋肉組織を一部空気層を残し密栓して常温で保存したところ14年を経過後も最初の状態を保ったということです。対照として、同様に蒸留水に密栓された組織は1週間後から腐敗を始めたということです。このことからパイウォーター中では微生物が活動できないことが示唆されます。
 第5章ではπウォーターで処理した他のいくつかの事例を写真で比較例示しています。この事例では使用された脂質溶液は10-9モルで、この溶液にあらかじめ浸漬してから比較例と共に栽培試験が行われました。結果は写真で示されていますが、いずれもπウォーター浸漬の試料の方が結果がいいように見えます。
 この章での疑問は第4章で最適濃度が2×10-12モルと決定されているのに何故500倍もの高濃度の液で処理したのでしょうか?

(2)赤塚充良著『生命回復』かんき出版(1997)

 当ホームページ植物雑記帳「観葉植物、幸福の木、伝来記」で紹介したように、パイウォーターが世に出るきっかけとなった経緯を紹介しています。この中で、現在、販売されているパイウォーター活水器に入れられている「パイウォーターの素」ともいえるセラミクスについて書かれています。これは東大農学部、東京農大教授を勤められた杉二郎博士と山下昭治博士の共同研究で完成されたということですが、p.78に

『FFCセラミックスは、あらゆるミネラルを豊富に含有する軟質多孔質の天然無機質資源を素材にして焼き上げたものです。これは、数千万年前から海底に堆積していた天然資源です。この天然素材とFFC水との複合作用によって、すぐれた効果を発揮するのです。さらに、このFFCセラミックスは、接触する水にFFCの基本作用を伝達するという、まったく新しいタイプのセラミックスだということをつけ加えさせてください。FFCセラミックスから放射される遠赤外線とわずかに溶け出すjミネラルが、水の機能を変え生物に適した水に変化させるのです。』
と書かれています。(FFCとはFerrous Ferric Chloride(塩化第一・第二鉄)の略で水溶性二量体鉄塩を示す造語)

 このセラミックスの製造方法は1991年の日本海水学会で『水溶性二量体鉄塩の製造方法』として発表され大きな反響を呼んだということです(p.49)。そこで日本海水学会から発表予稿を取り寄せて見たのですが、そこには水溶性二量体鉄塩の簡単な実験室的製法が述べられているだけで、その生物学的活性についてはいては何も触れられていません。おそらく、発表当日、口頭で発表されたのでしょうが不思議なことです。学生の発表であれば、データが予稿の締め切りに間に合わず当日発表ということは、よくあることですが、学会の大御所ともいえる先生方の発表としては腑に落ちません。
 もうひとつ理解できないことは、最初に幸福の木の処理に使われたパイウォーターがセラミックスを投入して作られたと書かれていることです(p.39)。文脈からすると、この時点では山下博士の前記薬品から調製されたパイウォーターであると思うのですが、著者は前後関係を勘違いしたのでしょうか?

(3)水溶性二量体鉄塩の製造方法:日本海水学会、発表予稿 p.11(1991)
(以下原文のまま掲載)

杉 二郎(東京農業大学)、○山下昭治(物性理化学研究所)

 天然の二量体鉄塩としては、四、三酸化鉄を中心とした一連の強磁性化合物があるが何れも基本は水に不溶の酸化物から成り、酸処理等を加えても、これらの物質から水溶性二量体鉄塩に誘導することは事実上極めて困難である。
 演者らは、自然界における無機物質と有機物質の物質変換に関する生成論的考察、また生物体における物質同化と鉄成分の関係等の機構を総合的に考察し、それに基ずく幾つかの検討試験を重ねた結果、始原的な有機化合物と3価鉄塩の共存下では、鉄塩の原子価の一部が2価鉄に変わり水溶性二量体鉄塩が生成される可能性があると考えられた。

 まず、無機物質を主体とした反応系で生成される窒素および炭素化合物を検索した結果、アンモニア、アマイド、ギ酸等が始原物質として生成されることが認められた。
 そこで始原的有機化合物として、ギ酸アンモニウム、ヒドロキシルアミン、フォルムアミド、の
3物質を選び出して実験系を組み立てたところ、次のような実験結果が得られた。
 (1) ギ酸アンモニウム 2mol、ヒドロキシルアミ ン 1mol、フォルムアミド 1mol の混合液に塩化第二鉄 FeCl3・6H2O  1molを加えた。この調製液を順次蒸留水で希釈し、その希釈液についてそれぞれ電気伝導度を測定した。
 (2) 調製希釈液 10-8mM (α)、10-12mM (β)、10-14mM (γ)のところに3〜14μs/cm
の高い電気伝導度を示す濃度領域が認められた。
 (3) α、βおよびγ液のそれぞれの溶液にあらためて塩化第二鉄 FeCl3 ・6H2Oを1g/10mlの割合で溶解し、100℃以下で徐々に蒸発濃縮し、乾燥器中に静置して結晶粉末を得た。
 (4) 得られた結晶粉末中の2価鉄:3価鉄の比率をメスバウアー法で測定した結果、α、β、およびγに相当する塩化鉄(FFC)ではそれぞれαーFFC(4:6)、βーFFC(6:4)、
γーFFC(7:3)の値が示された。

 また結晶粉末について、イオンクロマト法、X線解析法等により塩化鉄中の2価鉄と3価鉄の存在状態を検討した結果、2価鉄と3価鉄は単なる混合状態では無く、何れも二量体の形を異とっていることが強く示唆された。よって本物質を1200℃以上で焼成し高純度の二量体鉄塩を得ることができた。 (以上)


 <疑問点>
 ○常温で生成した二量体鉄塩を何の目的で1200℃で焼成したのだろう?有機分を分解除去するためだとしても、1200℃で焼く必要はないし、生成した塩は酸化物となり不溶化するのではないだろうか?生成した物質の結晶構造はX線回折ではどういう結果だったのだろう?
 ○仮に上記方法で得られたセラミックが水溶性であったとして、最初の論文で示された、極めてクリティカルな鉄濃度が実現されたのかどうか、全く明らかでない。
 ○赤塚氏の著書ではFFCセラミックスは海底の天然資源を焼いたものだと述べておられるが、この研究と、どうつながるのでしょうか?

(4)飯野節夫著『驚異の水 πウォーターの秘密』現代書林(1991)

 この本には現代の水がいかに汚染されているか、健康における水の重要性、水の浄化法、パイウォーターの驚異的効果、使用事例が述べられていて、肝心のパイウォーターがいかにして生成するのか、そのメカニズムについて上記二書以上の情報はありません。この本はπウォーター製造装置の販売支援のために書かれた本のように思えます。

 以上、パイウォーター製造に関する技術は全く闇の中です。しかし、その驚異的効果(これも公的機関での検証が必要でしょうが)に関心を持つ人は少なくないらしく、いろんなホームページで取り上げられていますが、その中で、びっくりする内容が書かれているページがありましたので、関係部分を紹介しておきます。

(5)週刊文春」(1992年4月2日号)の記事

告発!“蛇口産業”の内幕 “奇跡の水”πウォーターは科学的根拠ゼロ(大朏博義)より

こうなれば、現在のブームの仕掛け人である山下氏に直接、「πウォーターは、本当に何にでも効く万能薬か?」と聞いてみるほかない。
再三にわたってインタビューを依頼したが、研究に没頭したいとかでOKが出ず、かわって文書で回答してきた。以下に、その主要部分を紹介しよう。

“生みの親”の意外な回答
まず、自分は研究者として、自然界における物質の存在と物質変化に関する原理を追究してきて、将来も変わらないと基本姿勢を述べる。そして、ブームの現状をこういう。
<世間ではπウォーターに関する商品が宣伝され、販売され、それがあたかも私の理論の応用であり、私が技術指導をしているかの如く、私の名前が使われております。
このことは私にとって大変な迷惑であると同時に、世の消費者の方達を惑わすことにならないかと心配しております。現在、πウォーターという名前のもとに販売されている商品には、私は全く関与しておりません>
では、“山下理論”によってπウォーターなるものは作れるのか、どうか?
<私の理論の実用化には長くて地道な実験と検証の繰り返しが必要であると思います。検証の結果、効果の再現性の認められる方法や製品ならば喜んで推奨したいと思いますが、私が作ったものでもないし、技術指導したものでもない製品については全く責任は持てません>
その理由は、
<πウォーターに含まれる二価三価鉄塩は、分析できないほど微量でなければなりません。従って、製品を分析してその品質を検査するということは、一般には容易なことではありません。ここにも、πウォーターが悪質なコマーシャリズムに乗って行く危険性があるのです>
そして、回答の最後を次のように締めくくっている。
<以上、πウォーターの生みの親として、現在のπウォーター製品の横行に警鐘を鳴らす次第であります>
山下氏の説明を要約すると、
「πウォーターを人工的に作ろうとしても、効果を発揮させる製造技術がまだない。いま出回っているπウォーター製品の効果は大いに疑問である」
ということになる。水道水を夢の水に変えるような製品に関しては、否定的と考えざるをえまい。
実際のところ、山下氏のこれまでの言動を調べてみると、これほど慎重な物言いにはなっていない。みずから“コマーシャリズム”の先頭に立って、“理論の実用化”が完成しているかのような発言も多かった。
しかし、ここではそれをあえて問わない。それよりも、人の健康不安につけ込んで「アレルギーに効く」とか「ガンも治る」などといった、エセ科学的説明でひと儲けしようという“水商売”の考え方のほうが、大きな問題なのである。

<とりあえずの結論>
 「生物の生命活動に驚異的効果をもたらすパイウォーターの製造法はまだ確立されていない。市販されている製造装置の効果は疑問である」
 
<残された疑問>
 パイウォーターの大量製造は当面ダメでも、山下博士の論文にある希釈法で製造できるのだろうか?すぐ分解して効果がなくなるのだろうか?そのパイウォーターで論文に記された効果は再現できるだろうか?どこかで追試していただけないものだろうか。

<パイウォーターへの期待>
 筆者としては、パイウォーターが幻想でないことを願っています。現段階で再現性に問題があったとしても、一度でもそのような効果があったのなら、それは条件を詰めてゆけば、必ず再現できるからです。多くの研究者に関心を持って頂いてこの問題が解明されることを期待しています。
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